2023年11月30日(木)難波で行われた大阪・関西万博開幕500日前イベント『まちごと万博カーニバル』。とよのていねいがEXPO酒場豊能店として企画・運営した、《勝手》シティプロモーション「ヘンなただいま博」ができるまでのいきさつやバックストーリーをまとめてみました。
「だれかドア余ってたりしませんかね……?」
マイルドに場を凍らせてしまった私の発言。ディスプレイ越しにお互いの顔色をうかがうZOOM会議の静寂を切り開いたのは、EXPO酒場 堺店 店長を務める 野村範仁さんだった。
「作れると思いますよ」
え……?
「たぶん作れるんちゃいますかね?まだ確認とってないけど(笑)」
なんばの一等地での「まちごと万博」。一見ネタ枠のような私たちの企画は、野村さんのひとことで実現に向けて加速しだしたのだ。この時、まちごと万博まであと2週間……。
◆
なんばで万博500日前イベントするんですけど誰か出ます?1ヶ月後なんですけど。
2025年の大阪万博を楽しみたい人たちが集う「EXPO酒場」。関西だけでなく鹿児島や青森など全国規模で開催、とよのていねいも豊能店として参画している。「EXPO酒場」では各エリアの発起人が”店長”と呼ばれ、自身のエリアでEXPO酒場を開催することで、万博の機運醸成のほか、なにか面白そうなプロジェクトやつながりの起点として機能するしくみだ。
EXPO酒場では月に1、2回「店長会議」と呼ばれるZOOM会議がある。EXPO酒場の仕掛け人であるdemoexpoのボードメンバーを筆頭に、全国の店長たちが集い、近況報告やこれからの動きについて共有するのだ。
demoexpo公式サイトより 画像は2024年6月時のスクリーンショット。今も続々と増えつづけている。
冒頭の「なんばで万博500 日前イベントするんですけどEXPO酒場のどなたか出ます?あと1ヶ月しかないんですけども(笑)」はdemoexpoボードメンバーから発せられた、店長会議のひとコマである。
ここからは、その当時の私の脳内の葛藤を鮮明に書き起こしてみたので追体験してほしい。
- ほかのEXPO酒場を司るメンバーは、大きな都市や大企業ばかり。
- まるで足軽兵のような存在の豊能店。
- 半年前「EXPO酒場 豊能店」を開催はしたが…
- このあとどうするか?発展するのか?
- 自分でも手応えをつかめていない
- なんばという大舞台でPRできるチャンス
- しかし1ヶ月しかない
- 見送るか…
- 「あぁあいつら(豊能店)消えたな」と思われる
- すっごく予想の範疇
- 今こそしがみつかなくては…!
わたしは意を決してZOOMのマイクをONにする。
「豊能店、出ます…!何のブースを出すかはこれから考えます」
企画のはじまり
「バカ歩きの標識とノリノリの住民」、「おちゃらけダンス入店で5ドル引き」稀に遭遇するこういった世界の微笑ましいニュース。
街ゆくフツーのおじいちゃんも、マダムも、カッチリめのビジネスマンも、このネタに嬉々として乗っかっていく(そして何事もなかったように再び日常へ戻っていく)光景がたまらない。こういったときめきニュースに遭遇するたび「自分たちもいつかこういうのがやりたいよね」と夢を見ていた。
↑コメディ番組『空飛ぶモンティ・パイソン』が発祥の「バカな歩き方専用道路」。コロナを機に再注目され日本でもニュースになった模様。
demoexpoの花岡さんにもご意見や評価をもらいつつ、
- 豊能町のブランドメッセージ「曲がりくねって、ただいま」と紐づけ
- 街の幸福度ランキング1位の豊能町(「いい部屋ネット 街の幸福度ランキング2023年度大阪版」3年連続で1位 /大東建託株式会社)
という豊能町PRの要素を肉付けしブラッシュアップを行うことで、《勝手》シティプロモーション、「ヘンなただいま」博は誕生した。
EXPO酒場は「ルイーダの酒場」。スペシャリストたちとの出会い。
企画ができたはいいが、私たちは困っていた。肝心のドアが見つからないのだ。
会場となる、なんばカーニバルモールは屋外の遊歩道で、建物に挟まれていることも相まって天候によってはビル風のように強風が吹く状況が考えられた。レンタル業者もあたってみたが上記を理由に断られていた。どこからか建材を譲ってもらうことも考えたが、風が吹く屋外でドアを自立させないといけないことが大きなネックとなっていた。
この難題に対して、EXPO酒場 堺店の野村さんは「作れると思いますよ」と鈴を転がすような声で助け舟を出してくれたのだった。
後日、野村さんがOK取れましたよ!とご紹介いただいたのは、貝塚市 日本紙工株式会社さん、堺市 株式会社小泉製作所さんだった。
どちらも大阪北部の豊能町とはほぼ真反対に位置する都市であり、ものづくり・製造業のスペシャリストたちである。通常ルートなら接点さえなかったかもしれない、各ジャンルのプロとの出会い。EXPO酒場では、ドラクエの「ルイーダの酒場」*現象があふれている。
*ゲームソフト『ドラゴンクエスト』に登場するおなじみの酒場。旅人たちが冒険する仲間をもとめて集まる出会いと別れの酒場。現実社会では、共創の理想の場所としてよく挙げられがち。
本当にいいのだろうか……こんなふざけた企画で。おそらく豊能町という名前も初めて聞いたに違いないのに。
稀有で言葉どおりに”ありがたい”方々にまずはひと目会いたい!と泉州オープンファクトリーで行われる工場見学へ向かった。
「日本紙工」さんは南大阪で唯一のコルゲートメーカー、つまり材料からダンボールを作り上げることができるメーカーなので、サイズや形状に制限が少なく自由度が高いことのが特徴だそう。
折り、差し、かぶせなどの工程だけでノリやハサミを使わない緩衝材のサンプルや「ダンボール工作キット」昆虫シリーズの紹介も。
ダンボールムカデを素手で持ち説明してくれた、営業部長 高橋さん。(ダンボールドアは部長が自ら設計。部長が追求するダンボールの『構造と美とその哲学』を垣間見て、我々はひれ伏すこととなる……。)
そしてイベント4日前、EXPO酒場堺店の副店長でもある小泉製作所代表の小泉さんからはこのような写真が届く。
「こんなフレームが出来ました!明日、日本紙工さんに引き取っていただく予定です。倒れるのが危ないので脚は長く設計させていただきました🤗」
完璧でめちゃくちゃ本格的なやつ!
娘さんが仕上げのペンキを塗ってくれた。かわいい…
最も心配されていた風対策。完全オーダメイド・特注で堅牢なフレームを作ってくださったのだ…!風で倒れないようにと脚は長めに組み立てることができる仕様。これ、ぜったい大丈夫なやつだ!!!
日本紙工さんと小泉製作所さんはお互いの技術力をリスペクトし、そしてお互いが高まるようにと技術と時間を割き、切磋琢磨してくれていた。
小泉さんはメッセンジャーの最後をこう結ぶ。
「ちょうどイベントが重なりすぎてて、はっきり言って時間はなさすぎだったんですけど(笑)」
「ただ、やるべき事かなって。当日の皆さんの笑顔が楽しみです!」
そこに日本紙工営業部 企画開発室の木岡さんは「私もです!楽しみー!」と続ける。
なんて粋でかっこいい世界なんだろう。念の為お伝えしておくがこれは仕事ではない。
パリピは良いとしてよぉ、陰キャは「ヘンなただいま」できるのかっつう話よ。
企画しておいて今更なんなのよ、ではあるが私は若い頃にモテをこじらせているので、こういうさも弾けたお祭りごとに、できることならできるだけさけて穿って外野から見てたいほうの人間である。モブで十分。
なにがどうやって、こういう活動を自ら主催するようになったかの経緯はおいといて、その穿った意識を脱したいと思っていて、それと同時にかつての私と同じような大人たちは、どうやったら一緒にジャンプしてくれるのか、一緒に楽しんでくれるのだろうかと考え続けていた。
「ヘンなただいま」になるお題を用意して、オーダー方式か運に任せたくじ引き方式か選べる。
人はみな、卵の安売りに弱い生き物だから──。
ヘンな「ただいま」してくれたら、純国産鶏のたまご1パック(4個入)プレゼントしたらどうだろう。ほら、みんな卵が99円になるだけでスーパーにめっちゃ並ぶじゃん。と隣町へ買い付けに。
そのほか、自家焙煎コーヒー豆のドリップバック(EXPO酒場 湖南店長 DONGREE BOOKS & STORY CAFE さん提供)や特製てぬぐい(EXPO酒場 堺店 野村さん提供)など、各EXPO酒場にご協力いただき、「おかえり特典」を用意した。
特典の数々はシャイなお客さんが思い切って「ヘンなただいま」するための大義名分であり、これは私達からありがとうのお礼とおもてなしを兼ねている。
普段からパリピな方も、奥手な方も「人生の中のブレイクスルー」とか「どうかしてたな…あの時」を楽しんでほしい。お祭り騒ぎって、きっとこういうこと。
※後日談として興味深いのは、特典をもらえると知らないままチャレンジした人が多数で、こんなにもらえるの!?と喜ばれた。つまり「ヘンなただいま」に大義名分なんてものは、最初から必要なかったのだ。にんげんっていいな、と思った。
豊能町(カメハウス)から、でぇ都会のミナミへきたぞ。
2023年11月30日(木)まちごと万博当日。とよのていねいからは、宇都宮頼子(私)、相澤由依、宇都宮正宗、動画撮影は平井友之。盛り上げ役の準備もばっちりである。
この日がダンボール製「ヘンなただいま」専用ドアとの初のご対面。ドア設置のために野村さん、日本紙工さん、小泉製作所さん、そして世並誠さんが一緒になって搬出まで付き合ってくれた。
左から小泉さん(株式会社小泉製作所 代表)、木岡さん(日本紙工株式会社 営業部 企画開発室)、高橋さん(日本紙工株式会社 営業部長)。両社のダブルネームが光る。
部長から手渡されたドアノブにはこんなエピソードも。
「ドアノブには”凹み”があるものだ」とイベント前夜に木岡さんからのリテイクがあったそうで。実現しました〜と優しげに微笑む部長。もはや工芸品をつくる人間国宝に見えてくる。
息ぴったりすぎる、日本紙工さんと小泉製作所さん。
ここにズドーーンと置いちゃいましょうよ!!
「イベント現場と幼児は予定どおりにいかないもの」もはや諺にしてもいいくらい業界では定説ではあるが、やはりこの日も配置図どおりの設置が難しいことがわかった。
植え込みに挟まれて(理由がしょぼすぎて私ららしい)やぐらの裏手に設置するしかないか……と思われた豊能店のブース。
「人通りに向かってズドーーンと置いちゃいましょうよ!!いっぺん置いてから聞きましょ!」と尻込みしかけていた私たちに、野村さんと世並さんが背中を押し、実際に設置して見せてくれた。
これでいきたい。理想の配置。
「すみません、ここに置かせてもらっていいですかね……?」忙しそうな運営スタッフの女性(のちに阪急阪神不動産の皆川さんと知る)におずおずと聞いてみる。直前の変更って絶対の絶対に面倒しかないのに「……大丈夫です!いっちゃいましょう!」と笑顔で答えてくれた皆川さん。それは言外で”責任はワイが全部持つ”と言っているのと同義であり、かわいらしい笑顔の奥に覚悟のような強さを感じた。それだけではない「ヘンなただいま、絶対マイクいりますよね?持ってきましょうか!」とさらに私たちがよくなるように提案してくれるのであった。
動画でふりかえる「ヘンなただいま」とはなんだったのか。
「ヘンな『ただいま』博」のハイライトをぎゅっとまとめたのがこちらの映像。まちごと万博全体を包み込む「楽しむぞ!」の空気感が映像に収められているのでぜひご覧いただきたい(撮影・編集 映像制作 JOYNT )
私たちの出店は90分と短い開催時間にも関わらず、なんと27個の 「ヘンなただいま」 が集まった。これはおよそ3分に1回の頻度で人類が「ヘンなただいま」をした計算になる。単純にすごい。
この場に居合わせた人に聞いてみたところ、この日「ヘンなただいま」にチャレンジできなかった人は来たる日に備えてイメージトレーニングが始まるというし、チャレンジした人は「次はもっとうまくやれるはず」とより高みを目指すための自省が始まるという。
こちらは定点カメラが押さえた 27個もの「ヘンなただいま」 を淡々とご紹介。だれも拾わないシュールさ。
なお「ヘンなただいま」にかかせないレッドカーペットは、豊能町で住民参加型の多世代ファッションショーを手がける、社会福祉法人豊悠福祉会 祥雲館 さんのものをお借りした。
あとがき:自分たちの足りなさを神カバーしてくれた面々
搬出時、ドアを解体した後に弊社の社用車インプレッサ(セダン型)に190cmのフレームやダンボールドアが載るのか問題が残されていた。
もう帰っていい、残る義理はない。なのに笑顔で手際よく、ほいさほいさと運んでくれるみなさん。いつしか会場にいた他の方まで車庫への運び出しを手伝ってくれていた。名前さえも聞けなかったかのひと、ありがとう。
その場にいた全員が、これ絶対載らないだろ……と思っていた(けど口に出さなかった)最後の砦の詰め込み作業。みなさんがテトリスのように積載物を組み替え組み替え、どうにかこうにか奇跡的にトランクが閉まった瞬間、歓声が上がった。最後まで笑顔のみなさんに、深々と頭を下げる以外の感謝を伝える方法が見つからない。なんて気持ちの良い方々なんだ……。
この日を共に過ごし助けてくれたみなさんと集合写真を撮らなかったことだけを唯一悔やんでいるのだが、何度もお礼を言い、手を振り、箱乗り一歩手前で車を発進させた時のサイドミラーに映ったみなさんの姿は、私の心に大事に残してある。
◆SPECIAL THANKS(順不同)◆
まちごと万博カーニバル / 主催: 一般社団法人demoexpo 様
■ただいまドア製作提供:日本紙工株式会社 様 、 株式会社小泉製作所 様
■協力:EXPO酒場堺店長 野村範仁 様、 社会福祉法人豊悠福祉会 祥雲館 様、世並誠 様
■特典協力
・EXPO酒場 湖南店長 DONGREE BOOKS & STORY CAFE 様
・EXPO酒場堺店 様
■後援:豊能町
ヘンなただいま博 企画・運営: 一般社団法人とよのていねい(EXPO酒場 豊能店)
2 コメント
[…] 「ヘンなただいま」やら「とよのパビリオン」やら、EXPO酒場を通じて何やりたいの?と聞かれたら、わたしの根っこはここである。万博もまちおこしも、とことんまで個に落とし込んだ […]
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