進化の過程で、自然は人類に知識を与えることもできただろうし、先天的に宇宙の本質を知らしめることも可能だったはずだ。しかし、結局はそうしなかった。それにはなにか理由があるのかもしれない。宇宙の最後の秘密がすべて明かされたとき、人類はそれでも生存しつづけられるだろうか。
劉 慈欣. 三体 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1409-1412). Kindle 版.
この記事を書いてる現在(2020年6月10日)、もうすぐ(6月18日)発売される三体IIにさきがけて、大人気中国のSF小説“三体”を紹介していきます。
人気なのは知ってるけど、中国のSFってピンと来ないなって人や、そもそも小説なんて読まないよって人も、万人におすすめできる稀代の娯楽小説ですので、ぜひともこの機会に読んでみることをおすすめします。
また、「若いころSFは読み尽くして、今さら驚きは無いかも」というSF好きな方にも文句なしで楽しめる一冊になること請け合いです。
小説、三体とは
重力、ナノマテリアル、文化大革命、外部知的生命体、これらを話の軸として中国で生まれたSF小説です。
- 三体
- 三体Ⅱ 黒暗森林(上)
- 三体Ⅱ 黒暗森林(下)
- 三体III:死神永生(日本未発表)
の三部構成になっていて、現在日本語で発売されているのは最初の一冊のみ、もうすぐ第二部が上下巻として二冊が同時発売される、という状態になっています。
ですのでこの記事を読まれている方の中には、もうすでに三冊とも入手可能になっているかもしれません。
この記事では、一冊めの三体のみについて紹介していきます。
みどころ
物語は主に次の場面で展開されます。
- 文化大革命時代
- 現代
- なぞのVRゲーム三体
「ああ、どれも馴染みないし興味もないし苦手かな」と思った方、ちょっと待ってください。娯楽作品ですので、これらに馴染みがぜんぜんなくてもスルスルと引き込まれるように読めてしまいます。なんか動乱の時代がちょっと前にあったりしたんだなとか、今はすごいテクノロジーの時代だなあとか、VRゲームなんぞこれ!みたいなふんわりとした感じでどんどんと世界に引き込まれていきますのでご心配なく。
で、どれもがこまかな伏線になっているので、これから読む人にあらすじを伝えることすらも物語のおもしろさやおどろきを損ないそうで怖いのですが、次の点を踏まえながら読んでいくとワクワクが止まらないと思います。
- 動乱の文化大革命と、時代に翻弄され父を殺された少女のいく先は?
- 人里離れた野山に突如建設される通信基地。戦争はすでにはじまっていてこれは戦闘行為だという。巨大なパラボラアンテナは何をしている?敵は?
- 現代の水面下で次々と起こっている科学者の失踪や自殺。意味深な遺書を残してこの世をさっていく才能あふれる若き科学者たちは何を知ったのか。
- 国際的な科学者団体は何を行なっているのか。
- 謎が多くそれでいて不思議な魅力をもつVRゲーム「三体」。名前の意味するものは?
「三体」という、ちょっと読む気のうせるダサめなタイトルも伏線となっています。調べれば答えはすぐわかるんですけど、物語に触れるおどろきを最大限に楽しむためにも、ぜひとも知識をプレーンな状態にして読まれることをおすすめします。
つまり、言い換えれば何の知識も持たずに読み始めておもしろいってことです。
日本のアニメに影響を受けたであろう登場人物たち
作者が公式に「日本のアニメに影響を受けました」と言ったわけではないので、少なくともそう言ったと私は把握してないのでこれは私の勝手な憶測ですが、日本のアニメ作品から影響を受けたであろう登場人物が多く出現します。
銭形刑事っぽい奴は絶対銭形だし、キルビルの栗山千明みたいな子は小型核爆弾持って新体操で戦うし、お寺で紙と鉛筆だけで重力の計算を数式で解いちゃう数学者とか、終始日本のアニメっぽいキャラが絶対裏切らない形で日本のアニメっぽいことをやってくれるんです。これが読みやすさの一つにあると感じました。
主観書評データー
ジャンル | SF: 重力、宇宙物理学、ナノマテリアル、外部知的生命体、VR、控えめな量子論、どちらかというと古典物理学多め |
タグ | 文化大革命、時代に翻弄された父娘、謎の軍事施設、スパイ、科学者たちの失踪事件、植樹、恒星間通信、薄切りスライス、極限状態での文化形成、人力コンピューティング、多次元展開、イナゴ害、加速器大事 |
テーマ性 | 娯楽として楽しいくらいで特に気づかなかった。もしかしたら本国中国では政権批判となぞらえてるとかあるのかもしれないけど、そういうの全く関係なく楽しめる。 |
暴力表現 | 多少 |
アダルトな描写 | 特になし |
楽しむための前提知識 | 特になし |
安心して子供に読ませられる度 | ★★★(三点満点) |
読書初心者におすすめ度 | ★★★(三点満点) |
読書マニアにおすすめ度 | ★★★(三点満点) |
娯楽小説としての暴力表現は多少あります。参考までに、私は子供に安心して読ませられる程度と判断しました。小学生の子供が仮にこの小説を読めれば、自分の子に安心して読ませられるか、を想定しています。実際には小学生では読むのは難しいだろうと思います。仮に読めたとしても楽しさはわからないかも?
高校生くらいからならスラスラ読めて楽しめると思います。読書慣れしてる子供なら中学生からでも。
本を読む習慣のない大人でも、十分に引き込まれます。特に簡単な小説から慣らそうと思うよりは、楽しさがわかるまでに挫折するかもしれないので、こういう超一流の娯楽作品から入った方が良いかもしれない、そういう観点からも読書初心者にもおすすめです。
時系列や場面転換を繰り返しますし加えてVRゲームの描写も混じりますが、そういうのが多めな小説の中でもかなり読みやすい部類に入ると思います。
あと、最近のSFでは流行りの量子論が控えめな感じでしか入っておらず、今どきめずらしく重力の運動法則や恒星間通信などどちらかというと古典物理学をメインにしているのも、SF初心者にとても読みやすくなっているのではと感じました。量子論は控えめ、と言いましたが後半量子もつれなどの理論を応用した展開もあるので、もちろん最近のSFファンでも楽しめる内容になってると思います。
SF小説として現時点での到達点とも呼ばれ、SFというジャンルに限らず人類史における娯楽小説のいわゆるターニングポイントとして語られるだろうと呼び声の高い三体。仮にそういう前評判に純粋な広告以上の多少のプロパカンダや扇動が入ってたとしても、関係なく楽しめると思います。買ったお金と読んだ時間の損は絶対にしないので、キャッシュカードと暗証番号のメモを握りしめていますぐ銀行経由で書店に駆け込んでください!